【Tyrellの自転車づくり スラントデザインフレーム 】
Tyrellの自転車づくりとは、どんなものなのか?
今回から不定期で、Tyrellのプロダクトマネージャがお伝する企画の第一弾は、Tyrellのデザインコード「スラントデザインフレーム」についてです。
このブログをご覧いただいている方なら、Tyrellの特徴的なデザインのフレームが「スラントデザインフレーム」と呼ばれることはご存知だと思います。
斜めに傾斜したフレームメンバーが左右に取り付けられた、Tyrell独自のフレームには、特徴的なルックス以外にも様々なメリットが隠されているんです。
スラントフレームにはどんなメリットが有るのでしょうか?
ご説明いたしますね。
◆スラントフレームが生み出された理由について
弊社代表の廣瀬が Tyrell ブランドを立ち上げる際に、「他はない、独創的なアイデアを具現化する。」という目標が有りました。
当初から「ミニベロで高い走行性能を持った製品」が開発の要件だった訳ですが、廣瀬が拘ったのは「高いデザイン性と高性能の融合」です。
「一目でそれとわかる特徴的なルックス」でありながら、「機能的な裏付けがしっかりと在る」・・・。
言うのは簡単ですが、形にするのは本当に大変だったと思います。
実際に着手してから、基本的なデザインを完成させるのに、約1年を要したそうです。
その苦労話は、また改めて廣瀬自身からお伝えする事にして、ここでは技術的な側面からスラントフレームを解説させて頂きますね。
◆Tyrell のフレーム設計思想
Tyrell のミッションは「製品を通して、ユーザー様とエモーショナルな体験を共有する事」です。
その為の根幹である、フレーム造りで最も拘っているのは「自転車を操る喜び」「自転車を感じる喜び」の追求なんです。
それは自転車に乗れば楽しいとか、サイクリングが楽しいといった、アクティビティーとしての楽しさを指すのではありません。
もっと本質的な、乗り物(自転車)と一体となって駆ける喜びや、磨き抜かれたプロダクトと対峙する、もしくは所有する喜びの追求を指しています。
それでは、操る事が楽しい自転車のフレームとはどのような物でしょうか?
Tyrell が考える理想的なフレームの要件
1.自転車からのインフォメーションが明確で一貫性が有る事。
2.乗り手が加えた操作に忠実に反応し、その反応が人の感性に寄り添っている事。
3.どんな走行状況下でも、乗り手が信頼して身を任せられる事。
人が心地良いと感じる車体の過渡特性を追求する事が、Tyrell のフレーム設計において最も重要なポイントとなっています。
例えばですが、直進状態からコーナーリング状態に自転車が移行する時、ハンドルが急に切れ込んだりしたら怖いですよね。
このように、ある状態から異なった状態に車体が移行する際には、人の感性に寄り添ったフィーリングで移行して、なおかつ、そのフィーリングがいつも一定で信頼できる事が大切です。
そうでなければ、楽しくライドする事なんて出来ないし、ましてや自転車との一体感なんて得られるわけが有りません。
それでは、その要件を具体的な設計に、どの様に落とし込んでゆけば良いのでしょうか。
Tyrellでは、以下の要素が重要だと考えています。
フレーム設計における重要要素
・ヘッドチューブの高い捻り剛性 (一般的な数値よりも、高い捻り剛性が必要だと考えています。正確で安定したハンドリングの要です。)
・低い重心位置 (ふらつきの抑制と、切れの良い運動性を求め、一般的な位置よりも低目の重心位置が必要です。)
・高い軽量性 (必要な車体剛性を確保しつつ、その中で軽量性追求しています。単純な重量の軽さも重要ですが、運動モーメントに関わる視点から軽量性を追求しています。)
・最適化された各部の剛性 (一貫した車体からのインフォメーションを得る為に、最も重要な要素です。)
・長めホイールベース (低重心化等、小径ホイールの弱点を補う為には、長めのホイールベースが必要です。)
小径自転車のフレームで良好なフィーリングを得る為には、これらの要素が重要だと Tyrell では考えており、この要素をモデルごとにセッティングする事で、製品コンセプトに沿ったキャラクターを作り出しています。
要約すると、気持ちの良い自転車を作る為に、高い剛性が有って、低重心、ロングホイールベースのフレームが必要って事なんです。
でも、通常のダイヤモンドフレームでこれらの要素を実現しようとすると・・・
設計思想を実現する上で発生する問題点(小径車の場合)
・ロングホイールベース化すると、チェーンステーも長くなってしまい、縦、捻り方向の剛性低下を招く。
剛性を上げると重量増となる。
・ヘッドチューブが長くなる事で重心位置が高くなり、ヘッドの捻り剛性も低下してしまう(重量増にもなる)。
と言った様々な問題が、通常のダイヤモンドフレームでは出てしまいます。
◆スラントデザインフレームのメリット
・ヘッドチューブの捻り剛性を高める事が出来る。
・トップチューブを低い位置にレイアウトする事が可能となり、低重心化できる。
・長いチェーンステーでも、剛性のコントロールが容易になる。
・フレーム全体の剛性コントロールだけでなく、部分的な剛性のコントロールも容易になる。
・縦、横、捻りの剛性コントロールを緻密に行う事が可能。
この様に、スラントフデザインレームは、通常のダイアモンドフレームでは諦めるしかなかった小径車の弱点を克服する事が可能なんです。
しかも、それだけではなくて、より緻密に各部の剛性をコントロールする事も出来ちゃいます。
Tyrellが考えるフレーム設計の重要要素を、高い次元で実現できるのがスラントフレームテクノロジーなんです。
それでは、パートに分けてご説明しますね。
◆ヘッドチューブの高いひねり剛性について
小さなホイール径のミニベロでは、ホイール径が小さな分だけヘッドチューブが長くなります。
長いヘッドチューブのダイヤモンドフレームって、三角形と言うよりも四角形に近い形状になっていますよね。
四角形の構造物は三角形に比べて、強度的には非常に弱いものとなってしまいます。
その状態で強度を出そうとすると、大径のチューブや肉厚のチューブでフレームを構成するしかありません。
それでは強度は担保できても、重心位置が高くなってしまったり、重心から遠い部分が重くなってしまったり、縦剛性も同時に高くなってしまって乗り心地が悪くなってしまったり・・・
高性能なスポーツバイクに必要なフレームの要件を満たすことは非常に困難です。
では、画像の様なスラントフレームの場合はどうでしょうか?
左右に取り付けられたスラントチューブが沢山の三角形を構成して、ガッチリとヘッドチューブを支えている事がご理解いただけると思います。
通常のダイヤモンドフレームでは、横方向に作用する三角形が存在しませんから、その違いは驚く程に大きなものです。
◆高い軽量性&低重心
スラントチューブが追加されるスラントデザインのフレームは、一般的なダイアモンドフレームよりも重くなると思われる方もいるかもしれないですが・・・
上の画像をご覧ください。
黄色ラインが一般的なフレームの仮想ラインですが、スラントデザインのフレームの方が、低重心で三角形がコンパクトな事がご理解いただけると思います。
小さなフレームの方が、相対的に強度が高くなることは明白ですね。
また、先に書きましたが、スラントデザインフレームと同等の剛性をダイアモンドフレームで出す為には、太くて分厚いチューブが必要となります。
スラントデザインフレームが高い軽量性と高い剛性を持ち、低重心であることがご理解いただけると思います。
◆最適化された各部の剛性&長いホイールベース
上の2つの画像はスラントデザインフレームの、BB周辺のクローズアップです。
ホイールベースを長くしたいミニベロの場合、長いチェーンステーを採用することに成りますが、通常フレームでチェーンステーを長くすると、剛性が下がってしまいます。
そうならない為には、強度が高い太くて分厚いチェーンステーが必要です。
それでは、重くなったり重心から遠い部分が重くなって、運動性が悪くなってしまいます。
スラントデザインフレームなら、画像の様にスラントチューブをBBの後ろ側でチェーンステーと接合する事で、長いチェーンステーを採用しても剛性の低下を防ぐことが可能となります。
また、シートチューブとスラントチューブが交差する部分を、溶接したりしなかったり使い分ける事で、BB周辺の剛性をコントロールする事が可能となり、モデルのコンセプトに合ったフレーム特性とする事が可能となります。
金属材料を使う通常のダイアモンドフレームでは、このように部分的な剛性のコントロールを行う事は不可能で、このように細かな剛性のコントロールはカーボン素材を使用するしか方法が有りません。
スラントフレームテクノロジーなら、金属材料を使用していても、チェーンステーの縦横の剛性バランスを変えたり、BB周辺のみの剛性コントロールを行ったり、ヘッドパイプ周辺の剛性バランスを変更する事も可能です。
◆まとめ
ご紹介したように、高性能なミニベロフレームを制作する為には、技術的に困難な事が沢山あります。
それらを一気に解決できて、デザイン的にも優れた『スラントフレームテクノロジー』って凄くないですか?
僕はミニベロフレームの技術的なブレークスルーだと思っていて、ご紹介したメリットの他にも、実は様々なメリットが存在しているんですよ。
それは、また改めて違う機会でご紹介したいと思います。
それでは、最後まで読んで下さって、ありがとうございました!