いつもTyrellファクトリーブログをご覧いただきありがとうございます!
今回は『Tyrellの自転車づくり』の第2弾として、私達がどうして自社工場での自転車づくりに拘るのかご紹介したいと思います。
Tyrellの自社工場「Tyrell Factory」は2015年9月に完成しました。
自社の生産設備を持つ事が、創業者 廣瀬の夢だった訳ですが、ブランド創業から11年目で実現できました。
今の自転車業界ではブランド自体が生産設備を持つ事は、主流のビジネススタイルではありません。
設備投資が莫大な事も有りますが、一番の理由は自転車(完成車)を量産する為のサプライチェーンが台湾に集中している事が大きいと思います。
ご存知の通り、自転車には様々なパーツが必要です。
変速機や駆動パーツ等のメインコンポーネント以外に、ステム、ハンドル、ペダル、サドル等々、様々なパーツが必要で、それらを全部自社生産しているメーカーは存在しません。
自転車メーカーはコンポメーカー、ステムメーカー、ハンドルメーカー等から、必要なパーツを購入するODMか、自分たちで企画、設計した物を製造委託するOEMのどちらかで必要なパーツを調達しています。
現在、そういったODM(もしくはOEM)を受注してくれる自転車パーツメーカーさんのほとんどのが台湾に拠点を持っています。
地域によっては街全体が自転車工場と言っても良いくらい、自転車関連の会社が集中しているエリアも有る程で、完成車を作ろうとした場合は台湾でのビジネスは、自転車メーカにとっては不可欠なんです。
台湾では自転車を効率良く、大量に生産する為のサプライチェーンが出来上がっていて、台湾以外の第三国で自転車を作ろうとしても、台湾のサプライチェーンから独立したスタンドアローンでは、コスト的に太刀打ち出来ないのが現実です。
更に、日本国内で自転車を作ろうとした場合は、設備投資に必要なコスト、工場を稼働させるコストが、台湾で自社工場を持つよりもずっと大きなものとなる事は簡単に想像が付きますよね。
だから、日本国内で自前の生産設備を持って自転車を作るなんて事はだれも考えません。
儲からないんですから・・・
第三国にお願いして、ちゃんとしたものが造れるなら、わざわざ高いコストをかけて日本国内で製造する意味は無いというロジックです。
それは、物凄く当たり前で全く間違っていないんですが・・・
Tyrellはそっちに行きたくないんですね。
どうしてそう考えるのか?
新型コロナウィルスによる感染症の影響で、モノ造りのサプライチェーンを国内で再構築する動きが出ていますよね、でもTyrellが自社工場にこだわる理由は少し違っています。
今回も長くなりますが、ご説明したいと思います。
お付き合いくださいね!
◆Tyrellのミッション
『製品を通してユーザーの皆様とエモーショナルな体験を共有する事』
このスローガンは私達が一番大切にしている事なんです。
Tyrellの製品はエモーショナルでなければなりません。
全ての面で飛び抜けているとは言いませんが、製品コンセプトでフォーカスしている部分においては、比較対象が無いくらい魅力的で感動的な自転車を目指しています。
「そんな自転車は台湾では作れない?」そんな事は有りません。
台湾で作ってもらう方が、安くて良い自転車をラインアップ出来るといった考え方も有りますし、私もそう思う部分は有ります。
では、どうしてTyrellは国内の自社工場に拘るのでしょうか?
◆設計と試作
Tyrellで自転車を設計する際、試作してみて思っている方向性の自転車が作れるか確認したり、フィーリングの微細な違いを検証する為に試作品を何台も作ったりします。
設計して試作して評価して、また再設計して再試作して再評価して・・・
これを何度も何度も繰り返し、狙ったフィーリングの自転車を開発します。
今どきはPC上でシュミレーション出来るのは当たり前ですが、Tyrellにはそんなものありませんし、図面上の変更で微細なフィーリングの変化を理解できる技術と経験も不足しています。
だから、何度も試作して試すという恐ろしくアナログな事をやっています。
大枠で狙ったフィーリングに近い自転車は、私達でも机上で設計できます。
でも、その自転車が「エモーショナルな体験をもたらしてくれるのか?」となるとどうでしょうか?
まぐれ的に行けちゃう事は有るかもしれませんが、私達はそんな時でもこう思うんです・・・「ここを、ちょっと変更すれば、もう少し良くなるんじゃないかな?」って。
Tyrellの自転車は送り出す側の私達が感動できなければ駄目なんです。
「もうちょっと・・・あともう少し」が幾つも積み重なると圧倒的な差になる事を私達は知っています。
積み重ねの一つ一つは、取るに足らない微細な変化でも、それを沢山積み上げると驚く程の違いになるんです。
地道に積み上げる事でしか得られない感動は確実に存在します。
結局、Tyrellの自転車造りにおいて、試作の繰り返しは避けようのないプロセスなんです。
そうなると、社外の工場(しかも台湾の)で何度も試作を繰り返す事は現実的に不可能です。
まして、その工場が台湾に有る場合、ちょっと変更して試したい場合でも、送り返して作業してもらい、又、送ってもらう・・・もしくは作り直してもらう。
いづれにしても、コストと時間が掛かってしまい現実的ではありません。
台湾の工場で設計が完了した製品を量産する事は出来ても、試作を繰り返して少しずつ理想のフィーリングに近づけて行く開発作業をお願いする事は出来ないと思っています。
◆今までにない自転車への挑戦
Tyrellもモデルによっては台湾の工場で自転車を製造しています。
作ってもらいたい自転車の設計図を送って、「こんなのを作って欲しいんです。」とお願いするわけですが、「これは作れないよ~。」って事が良くあります。
先にも書かせて頂きましたが、僕たちはエモーショナルな自転車が作りたいんです。
そのために、従来の製造方法や考え方では作れないものあります。
決して造れないような物ではないのですが、自転車部品としては見た事もない形や作り方、もしくは技術が必要だったりします。
決して、ロケット部品を造るような事をお願いしている訳ではないのですが・・・
OEM工場は、製品を効率的に沢山生産して沢山利益を出したいんですね。
今ある技術で作れるフレームや自転車なら、安定していて効率的に生産可能ですから、どんどん受注してくれます。
では、新しい製造技術が必要だったり、従来とは異なった工程が必要な自転車はどうでしょうか?
製造する為の技術開発だったり設備投資だったり、工程変更だったり、不慣れなプロセスで発生する歩留まりの悪さだったり・・・生産効率が悪くなりますから、そういう仕事はやりたくないと思います。
だから「これは作れないよ~。」ってなっちゃうんだろうなと思っています。
もし、自社の製造設備が無くって、自転車を製造する為のノウハウがなかった場合、製造工場側から「これは作れないよ~。」って言われたらどうでしょうか?
諦めて設計変更することに成ってしまうと思いませんか?
だって作ってもらえないんですもん。
それは製造工場側のロジックに開発が合わせる事を意味します。
デザイナーが意図する自転車が形にならないって事です。
勿論、まるで実現不可能な物をデザインするのは論外として、技術的なチャレンジは必要になるけれど、何とか形にしたいと言った作り手の気持ちではなく、生産効率と言うバイアスに引っ張られた製品しか作れないという事です。
資本力、販売力が有る大手メーカーで在れば話は別なのでしょうが、私達の様な小規模メーカーが、思い通りの物を台湾で作ってもらう事はほぼ不可能です。
デザインや形状の変化は付けられても、革新的で他にはない自転車は何時まで経っても製品化できないんです。
Tyrellの自転車はエモーショナルでなければならないのに、従来の延長線上でしか自転車造りが出来ないなんて、存在価値自体が揺るぎかねない事です。
設計だけではなく製造プロセスにおいても、今までにないチャレンジが無ければ最終的な製品のパフォーマンスは停滞してしまいます。
自転車造りの主導権を生産工場に渡してしまう事は大きな問題です。
生産性優先では「今までにない自転車」なんて作れません。
◆価値の創造
Tyrell製品は、製品コンセプトが良く似ている他社のライバル製品と比較すれば、まず間違いなく一番高額なプライズタグが付いていると思います。
よく似たコンセプト、良く似た機能なのに一番高い・・・。
文書化できる部分だけで比較すると、ただ高いだけの様に感じてしまうかもしれません。
また、納期も他社の平均と比べるとかなり遅いです。
より良い物をより安く、直ぐに乗りたい・・・そういった顧客のニーズにお応えする努力が足りない事は事実です。
私達がそういったお客様のニーズにお応えする為には、台湾で製品を作ってもらうしか方法はありません。
それでは、先に書かせて頂いたように、Tyrellの存在価値自体が揺らいでしまいます。 『製品を通してユーザーの皆様とエモーショナルな体験を共有する事』は絶対に守らなければならないTyrellのアイデンティティーです。
「アイデンティティーを守る為には売れなくても仕方がない。」なんて思ってませんよ。
一人でも多くのお客様にTyrellの価値をご理解いただきたいですし、何よりも多くの方にTyrellのユーザー様になって頂きたいです!
Tyrellの自転車の価値って何でしょうか?
それは、リアルな体験のすばらしさです。
自転車に乗る事は、それ自体が楽しく感動的なアクティビティーです。
でも、Tyrellとなら何時ものサイクリングとは違った感動に出会えます。
「何だかいつもより気持ちイイ!」とか「いつもより、スーって走る!」とか、必ずそう思って頂けます。
「たったそれだけ?」
その通り!
たったそれだけです。
でも、それって、ここまで書かせて頂いた様々な努力が無ければ得られない、乗り物としての圧倒的なパフォーマンスの違いがもたらす感覚的な事なんです。
例えばですが、純正パーツの何倍も価格の高いブレーキシステムを使わなくても安全に停車させることは可能です。
でも、意のままに減速力がコントロール出来てブレーキングを楽しむ為には、微細な変化をコツコツと積み上げた、高価なブレーキシステムが必要です。
「乗り物と一体となって走る喜び」
その喜びは、微細な変化をコツコツと積み上げる事でしか得る事は出来ません。
Tyrellが掲げるエモーショナルとは、まさにこの事なんです。
なかなか伝わり難いお話ですが、良いお酒、美味しいお食事・・・
作り手が思いを込めて生み出された食事には、言葉では表現できない価値が有りますよね。
私達の自転車もそう在りたい、そう思って頂きたい。
そんなTyrellだけの価値を創造する為には、どうしても自社工場が必要なんです。
◆チャレンジ
規模の小さなTyrellにとって、自社工場を持つことは大きなチャレンジです。
でも、規模の小さな私達だからこそチャレンジしなければならない取り組みなんだと思っています。
大手メーカーと同じロジックで製品を作っていては、私達に生き残る道は無いでしょう。価格、告知などパワー勝負では勝ち目はありません・・・
だからこそ、誰もやらないExtremeなアプローチで、今までになかったEmotionalな自転車を創るんです。
クッソ長いBLOGに最後までお付き合い頂き有難う御座います。
Tyrellのチャレンジ応援して下さいね!!